対談参加者
・Aさん(研究機関勤務)
・Bさん(化学メーカー勤務)
・Cさん(機器メーカーA勤務)
・Dさん(機器メーカーB勤務)

  • ・定量NMRをJISに収載されてどうなった?
  • Dさん:定量NMRがJIS化し、ISO化を目指して活動しているわけですけど、JISに収載されたことによって何かいいことありました?
  • Bさん:いいことというか、「ハイ収載しました、じゃあどうやって成果を上げるんだ?」というステージで、成果というのは民間企業なので売上にになっちゃちょうんですが、それをいま一生懸命やってます。それを使ってどうするかを検討してます。
  • Dさん:JISに収載された今と、されていなかった以前を比べて、仕事がやり易くなったのかというところはどうでしょう?
  • Bさん:品質保証という意味では、すごくやり易くなっています。というのは、何か言われたら「JISに書いてあるから」と言えるんです。それまでは、ここに書いてあるとか、ここでやってるとか言っても、産総研は産総研のやり方でやっている、USPは絶対USPのやり方でやっているとなると、それで終わっちゃうので、あとからどうにもなんなくなっちゃうんです。
  • Dさん:ISOに準拠するといっても、たとえばISO9001だとか14001だとかっていうのは、企業がよく名刺とかに書いたりするじゃないですか。それに相当するようなことが定量NMRの世界にもあるんでしょうか?この分析は定量NMRのISOのなんとかに則ってやってますよって書くことに意味はあるのかってことですよね。
  • Bさん:ある、もちろんありますよ。
  • Aさん:自分もあると思う。無いよりはあった方がいいよね。
  • Dさん:箔が付くってことですね。
  • ・外国と日本の文化の違い?
  • Aさん:しかも、外国に都合がいいように作られるよりいい。
  • Bさん:そうですね、そこに意義はありますね。これは完全に日本の思い通りに作ったっていうか。
  • Dさん:ISOを日本が主導して作っていることの意義というわけですね。ではちょっと戻って、JISはどうなんでしょう?
  • Bさん:JISは日本の規格だから、日本のユーザーから質問を受けるんですけど、よくある適格性確認なんか「JISのK0138に載ってる、これでやってますよ」て言ったら、「あーなるほどね」で終わるわけですよ。メチャクチャ楽です。
  • Cさん:そうですよね、拠り所になるものがあるのと無いのとじゃ全然違うし、何かよくわからない分析じゃないでしょって言えるのが、JISだったり、もちろんISOもそうだし、局方もそうだし、そういうもんかなと思いますね、規格って。
  • Aさん;NMRは説明しにくいんですよ。クロマトだったら歴史があるし、あとクロマト自体がJISにも載ってるから、だから「JISに載ってるか」なんてクロマトで聞いたことないでしょ?拠り所がそもそも自分の先生とかがクロマトやってたよねってところにある。
  • Dさん:JIS規格って言うと、ネジとか、そう言うイメージがすごくあるんですけど。
  • Bさん:まぁでもふんだんに利用させてもらってますよね。例えばqNMR測定の試験をする上で、適格性確認はJISと同じですとか、システム適合性試験は局方の〇〇作成要領に従ってますとか、それをひとこと書けばそれで納得してもらえます。
  • Aさん:国内だけのこと言ったら、何か拠り所を作るっていう意味では、JISにした意味は大きいと思う。局方も拠り所になっているし、日本はルール的なものを作ったらとにかく守るしね。
  • Bさん:JISとか局方だって言ったら、「ああはいはいそうなんだ」ってなる。
  • Cさん:みんな絶対聞いたことありますからね。
  • Aさん:そこを利用するっていうのは、戦略としては自分は正しいと思う。NMRによる定量は、昔まで遡ってみるとやっている人はやっていたし。天然物の分野の方で「いくつかの化合物を測れるよ」っていうのは、論文としては出てたけど、オーソライズされていない状態だったわけ。例えば、学問の中では「そうだよねー」って言ってるけど、論文ベースではその真偽はわからないものって多いよね。それは、紙面の都合上、測定条件とか、細かな情報が示されていなかったりで完全に再現できなかったりすることも原因だとは思うけど...。 それに対して、JISとかだったら妥当性確認されて成立したものだろうし、誰でも出来具合というか信頼性が違うと思う。
  • Cさん:そういう論文は2000年代とか、もっといっぱいあって、標準物質が違うとかやり方がちょっと違うとか、論文の中では「この化合物のNMRでの分析に使いました」っていうので終わってるけど、じゃぁ自分のはつかえるのかどうなのかってのがわかんないんですよね。
  • Aさん:そうそう、研究としては成立してるし、正しいと思うけど、じゃぁ、世の中で実用できてるかっていうと、そうではない。
  • Cさん:それができるようになったのがここ2010年くらいから少しずつ、元を正せば共同研究が始まって、JISをつくってとか、そういうのがやれた頃になってようやくなんか広まるって言うかね。
  • ・レギュレーションの意味
  • Bさん:転機は局方だと思いますよ。レギュレーションに入るっていうのは全然意味が違いますよ。
  • Aさん:何でもそうなんだけど、LC/MSがレギュレーションに入ったときに、やっぱりそうだよねって。だからレギュレーションの中に入れていかないと。
  • Aさん:世の中に落とし込む作業っていうのが、どこかで絶対に必要なんですよ。
  • Dさん:NMRで定量するってのが割と一般化してきたなって言う感覚は、確かにあるかなって気がします。
  • Aさん:昔からやってたでしょ?だけど、ふわふわしていた感じでしょう?
  • Cさん:オリジナルっていうんじゃないけど、NMRを使って定量してるんだけど、この人はこういう方法でやってて、また別の人はちょっと違うやり方でやってて、この論文はまたちょっと違う感じのやり方でやってとか言う感じ?
  • Aさん:そうなんですよ。自分だって30年前に、修士の時に、異性体分析とか定量とか、NMRでやったら簡単じゃんみたいな。
  • Dさん:それはやってましたよね。
  • Aさん:やってましたよね、だから昔からやってるんですよ。だけど、正しいかどうかは誰もオーソライズしてない。技術的には異性体比はNMRちゃんと出てるよね、ってのはわかってるけど、誰もがそうだよねって言ってるだけ。
  • Dさん:NMRの定量自体は昔から使われているし、当たり前の技術ですね。
  • Bさん:利用は本当に多いんですよ。普通、海外では企業って第三者機関とかに分析を委託するんですよ。ところが日本ではそれを自分とこで囲うんですよ。
  • Aさん:秘密だからね。
  • Bさん:だからNMRもクロマトもなんでも非効率です。日本はちょっと特殊なんですよね。
  • Cさん:それぞれがNMRを買える環境にあるのかな、大学みたいに。
  • Dさん:それはあるかもしれない。今はわかんないけど、やっぱり日本って有機化学の雄ではあったわけだし。
  • Bさん:某先生が海外の学会か何かの時、「結局地に足をつけて定量NMRをやっているのは日本だけだ」って言ったのを私覚えてて、ホントその通りだなと思ったんですよ。レギュレーションをちゃんとしっかり入れて、地に足つけてやってるのは日本だけで、海外はなんかふわふわしているんですよね。
  • Dさん:ISOでそれが標準化されれば、アメリカであったり、ヨーロッパであったりも、それをオーソライズされたものとして使うようになるってことですかね?
  • Aさん:ISOのqNMRは既にあるqNMRの方法を妨害しないように作っているから、要求はゆるめになっているし、レギュレーションに利用するときには、目的に合わせて精度を決めてみんな使っていくんじゃないかな?
  • Dさん:少なくとも、そこにオーソライズされたものが1つあるから、それに従ってますよって言えるわけですよね。
  • Bさん:業界的にはそうなりますよね。
  • ・ウルトラミクロ天秤じゃなきゃダメなの?
  • Dさん:応用範囲をゆるゆるにするのはすごくいいと思うんですけど、そこで逆によく言われるのが「ウルトラミクロ天秤じゃなきゃだめなの?」ってやつですよ。
  • Bさん:局方のウルトラミクロ天秤ってのはあくまでも個別規格だから、強制というか法律なんで、そこは守んなきゃいけないんですけど、ISOなどはその外側にあって、そこではウルトラミクロ天秤って話にはなっていなくて、天秤はなんでもよくて、ちゃんと精度良く測っていればいいよってことです。精度の悪い天秤なら多く測ろうってことです。
  • Dさん:局方ではウルトラミクロ天秤じゃなきゃダメなのかってところはどうですか?
  • Bさん:そんなことないんですよ。あれは、個別規格のところをウルトラミクロ天秤にしてるだけであって、特定の物質だけなんですよ。
  • Dさん:生薬の個別の規格ですね。
  • Aさん:ウルトラミクロ天秤を使うのって、確か今のところqNMRの所にしか書いてないんですよ。あとは「○○を精密に測れ」くらいしか書いてないんです。
  • Bさん:一般の人たちに対しては、局方の特定の試験をやる以外だったら全然関係ないです。
  • Dさん:でもほら、さっきの話じゃないですけど、相乗りの人たちは、どこかにウルトラミクロ天秤って書いてあったら、なんでもウルトラミクロ天秤でやらなきゃいけないって思っちゃうわけですよ。
  • Bさん:あー、それは勘違いですね、そこはちゃんと説明しないといけないですね。
  • Aさん:そこが残念なことに、「これは局方とは関係ないし、これくらいの精度で目的達しているよね」ていうふうにロジカルに考えてやればいいんだけど、局方とか公定書に書いてあるから、その通り以外に出来ないと思っている人は多いかも。
  • Dさん:そこは良いところでもあり、悪いところでもありますね。
  • Cさん:応用するっていうかね。それが苦手かもね。
  • Aさん:たとえば、10mgを正確にはかるって書いてあったら、どう思います?
  • Dさん:ミクロ天秤でオーバースペックぐらい?
  • Aさん:つーか、ミクロ天秤でたぶんいいんだと思う。
  • Bさん:局方の保証って2桁保証だから、それを考えればおのずと答えは出てくるんですけどね。
  • Aさん:セミミクロでも多分大丈夫だけど、最小計量値を確認した方が良いよね。
  • Bさん:うちの会社でもそんなにいないかもしれない。
  • Cさん:そこになんでそれが書いてあるのかってところを考えないと、ちょっとそのまま使うのは大変なんじゃないですかね。
  • Aさん:何でそうなってるかっていうのを、自分で理解する努力は必要だと思う。
  • Bさん:それは、そういうふうにやらせちゃってる。たとえば品質保証の部分は考えずにただ決められたことをやれって、それが善っていう教育をしてる。
  • Dさん:恐ろしいことですよね。
  • Aさん:だって疑問に思わないんだもん。
  • Bさん:ウルトラミクロ天秤を使えっていうのは明らかに間違いだから、そこは偉い人が言ってくれた方がいいんだと思います。
  • Aさん:この座談会でも、そこに触れて、あれ?って思う人がちょっとでも増えてくれればいいなって思いますね。
  • Aさん:そうそう、自分の求める精度がどこなんだっていう計算をしたときに、ミクロ天秤でもセミミクロ天秤でもどっちでも収まるなら普通の試験はそれでいいのだけど。
  • Cさん:理解していればそれでいいですよね。
  • Dさん:たぶんそれを、たとえばJISであったり、ISOであったりで、こうあるべきってことが明記されていればわかりやすいんじゃないですか?
  • Bさん:ひとつあるのは、JISの安息香酸って規格があるんですよ。あれにはウルトラミクロ天秤のときは何mg、ミクロ天秤なら何mg、セミミクロ天秤なら何mgって書いてあるので、それが参考になると思います。あれはWEBで拾えますし。あれはよくできてるなあって思います。
  • Dさん:局方の一般試験法を書いてあるところでは、天秤の指定はしていないんですか?
  • Aさん:はかり及び分銅は規定されているけど、今のところはくわしく書いてなかったと思う。
  • ・JISやISOに収載されることの意味
  • Dさん:JISとかISOに収載されて明文化されると、みんな安心するっていうことですかね。
  • Aさん:その側面はあると思う。
  • Bさん:Cさんがさっき言ったみたいに、拠り所ですね。
  • Dさん:では、JISやISOに収載する意味は大いにあるってことですね。
  • Bさん, Cさん:大いにあります!